公益社団法人全国自治体病院協議会が発行する月刊誌 2025年8月号
地方の小規模公立病院における地域医療の課題への挑戦
山都町包括医療センターそよう病院 病院長 山下 太郎
近年、全国的に自治体病院の規模縮小や統廃合が進み、地域における医療提供体制の維持・継続が困難になりつつある。当院においても、地域の過疎化や新型コロナウイルス感染症流行以降の医療情勢の変化により、病棟稼働率や外来患者数、各部門の利用者数において減少傾向が見られている。本稿では、医療提供の継続と、病院機能の維持をめざす当院の取り組みを紹介しながら、地方の小規模公立病院が直面する課題について考察する。
当院は、九州のほぼ中央部(九州のへそ)に位置し、熊本県と宮崎県の県境で、九州脊梁山地にある。南側には、約1億年前に太平洋の海底で形成された堆積物がプレートによって運ばれた付加体の急峻な山々がそびえ、北側には約9万年前の阿蘇第四噴火による火砕流堆積物による溶結凝灰岩から成る阿蘇外輪山の山麓がなだらかに続いている。この自然の境界線に沿い、先人たちが整備した街道「日向往還」の関所宿場町として栄えた場所に、昭和20年、馬見原診療所が開設された。当院は、これを母体とし、2012年の新築移転から13年、創立から80年を迎える。
山都町の人口は約1万3千人で、高齢化率は県内第一位の52%に達している。人口の減少は今後も続くと予測されるが、高齢者人口の減少は緩やかでもあり、地域唯一の公立病院・救急告示病院としての当院の役割とニーズは今後ますます高まるものと考えられる。
当院の病院理念は、「公立病院、救急告示病院、へき地医療拠点病院として、患者様に信頼される良質な医療を継続的に提供し、患者様に親しまれる病院を目指す」である。現状の医療提供のみならず、病院機能の次世代への継承も重要な使命と考えている。基本方針のひとつに、「エンゲージメントの向上に努め、職員が自主性と創造性を持つことで、職員と病院がともに成長できる職場を目指す」を掲げている。公務員人事評価制度が導入される中でも、方法の目的化に陥ることなく、理念と基本方針の実現を主眼としている。
当院では、常勤医6名(病院長、副病院長、外来専従医1名、地域枠医師2名、自治医科大学卒医師1名)に加え、熊本大学病院をはじめとする各基幹病院から、循環器内科、整形外科、消化器内科、消化器外科、代謝内科、総合診療科、眼科、脳神経内科、小児科などの医師の派遣を受け、地域の中核病院として地域包括医療及び専門的医療を提供している。狭義の常勤医師は病院長と副病院長の2名に限られ、医師の高齢化や定年制、夜間勤務体制の維持などの観点から、常勤医師の招聘は最大級の課題である。
病床数は急性期病床47床、地域包括ケア病床10床の計57床であり、202年度の診療実績は、稼働率72.5%、平均在院日数19.8日、外来一日平均患者数140人、年間救急患者数1,929人、救急車搬入279件だった。二次救急医療機関として、24時間体制で患者を受け入れており、救急搬送患者の多くは当院で診療完結が可能だった。およそ7%の患者については、当院での対応が困難と判断され、熊本市内の三次救急病院へ転送となったが、当院からの要請に迅速に応えてくださる関係機関の皆様には、日々感謝の念に堪えない。 また、当院では歯科医師1名による診療を行い、近隣の自治体病院の病棟の訪問診療も実施するなど、歯科医療資源の乏しい地域における貴重な役割を担っている。
リハビリ部門には、理学療法士4名、作業療法士1名が在籍し、年間提供単位は入院リハビリ約14,500単位、外来リハビリ約2,200単位にのぼる。可能な限り迅速なリハビリ提供を心がけている。
透析部門は11床を備え、透析患者数は平均23人。熊本大学病院から腎臓内科専門医を週1回招聘し、常勤医とともに回診およびカンファレンスを実施している。
訪問看護ステーションには看護師3名を配置し、広大な町域(県内第3位の面積)における訪問看護・在宅医療のニーズに対応している。訪問診療・入院・外来との密接な連携のもと、在宅看取りにも積極的に対応しつつ、維持に困難を伴いながらも地域医療を支えている。
さらに、町内3カ所のへき地診療所を週1回ずつ運営し、高齢者が多く、遠距離通院が困難な住民に対して医療を提供している。町内の無医地区は、2020年には19カ所あったが、2025年現在は8カ所に減少した。これは一見改善のように見えるが、実際は該当地区の人口が50人未満となったために統計上無医地区から除外されたに過ぎず、医療ニーズはむしろ高まっている。
2025年1月からは、自治体の要請により、医療用MaaS(Mobility as a Service)によるオンライン診療を開始した。当初、小規模病院にとって職員負担や採算性から導入は困難と考えられたが、今後の医師不足の進行や通院困難患者の増加を見据え、地域住民への安心の提供、さらには全国の類似地域への示唆となるべく、困難を承知で導入に踏み切った。遠隔診療車が自宅近くまで訪れることに感謝される住民の姿を見るにつけ、導入の意義を強く実感してる。
小児科診療については、長年地域医療を支えてこられた小児科・内科クリニックが2025年3月に閉院することを受け、同年4月より熊本大学小児科の支援のもと、週1回の外来診療を開始した。町、医師会、役場と連携しながら対応を協議し、町長とともに熊本県庁や大学病院を訪問してへの要請も行うなど、関係者一丸となって準備を進めてきた。
月2回開催している地域多職種・多施設合同会議では、医療と介護の切れ目ない連携と質の向上をめざし、住民が安心して暮らせる地域づくりに貢献している。過疎地においては、医療・介護のいずれも継続が困難な状況にある中で、「選ばれる医療・介護」を目指して取り組んでいる。
新興感染症対策にも積極的に取り組んできた。新型コロナウイルス感染症発生当初には、行政からの要請に応じてPCR検査の検体採取を実施し、また、郡内初の感染症病床も確保した。単一病棟の一部をゾーニングして対応した事例は、当時として先進的な取り組みとして評価された。
また、次世代の医療人育成にも力を注いでいる。2025年度には、大学病院の特別臨床実習学生9名、初期研修医10名、専攻医(自治医科大学卒医師、地域枠医師)2名を受け入れた。近隣に病院のない当院の特性上、地域の多様な患者を総合的に診療することができ、地域医療に関する教育効果が高いと自負している。地域医療を志す若手医師の貴重な実習機会として、今後も教育・研修に尽力していきたい。
以上、当院の現状と課題について紹介した。およそ1億年の地質の営み、9万年前の火山活動、数百年の街道の歴史が交差するこの地に、わずか80年の歴史を刻む当院がある。今後5年、10年、そ してさらにその先も、現在のような地域医療が継続できるよう努めている。本稿をお読みくださった皆様におかれましては、可能な範囲でのご助言、ご支援を賜れますよう、心よりお願い申し上げます。 令和7年(2025年)6月吉日
(全国自治体病院協議会雑誌 2025;64(8)30-32一部改変)


