公益社団法人全国自治体病院協議会が発行する月刊誌 2026年1月号
地方の小規模病院における医療用MaaSによるオンライン診療導入への挑戦
山都町包括医療センターそよう病院 病院長 山下 太郎
山都町包括医療センターそよう病院は、外来、救急、入院、退院後のケア、介護まで一体的に担う地域の中核病院である。病床数57床、常勤医6名と小規模ながら、町内唯一の公立病院として24時間救急医療を担い、県内5カ所のへき地医療拠点病院の1つとして広い範囲の住民を支えている。当院は2025年1月から医療MaaSを活用したD to P with N型巡回オンライン診療を開始した。
無医地区が、熊本県内に26箇所あり、そのうち8箇所が山都町内に存在している。当院はこれまで医師・看護師・事務職員を週1回ずつ派遣し、へき地診療所での対面診療を続けている。しかし将来的な医師不足や訪問診療の継続困難への備えが課題であった。こうした状況を背景に、町役場の提案を受け、現在の僻地診療所や、訪問診療に加え、医療MaaS(Mobility as a Service)によるオンライン診療も導入することにした。
導入当初は衛星スターリンク回線や車両機器の操作など準備に苦慮したが、現在は体制が整い、月1回、町内3地区で計10人程度の患者に巡回オンライン診療を行っている。看護師と運転士の2名が地区を訪れ、看護師が患者に付き添いながら、オンラインで院内に待機する医師とつないで診療する方式である。スタッフは、外来に比べ1時間あたりの対応人数は少ないものの、患者や家族の負担軽減に貢献できる点にやりがいを感じている。
対象は、従来家族が月1回送迎して来院していた高齢者が中心で、自宅近くの公民館で受診できるため患者や家族の負担が大幅に減った。患者満足度は高く、画面や音声の質も良好で、「家の近くで診てもらえて助かる」という声が多い。
一方、課題も多い。オンライン診療では検査・触診が不十分で、対面に比べ情報量が限られる。また看護師不足の中で、半日1名シフトを追加する必要があり、職員の負担増につながっている。さらに、これは役場の支出ではあるが、車両購入費は高額であった。診療報酬は通常の外来とほぼ変わらない程度あるが、通常の病院受診が1回減るため収入増につながらず、看護人件費を含め採算は厳しい。公立病院として地域医療の責務を果たす一方、収支の安定も求められ、継続には工夫が必要である。
2 026年も現行規模(月1回・3人程度)を維持し、制度が地域住民の安心感につながるよう運用を続ける方針である。町役場と協力し、ホームページや説明会、各種イベントで医療MaaS車両を展示するなど周知活動も進めている。車両は医療以外の用途にも転用可能で、マイナンバーカード業務や地域サービス、選挙期日前投票所としても活用され、多目的な地域資源としての価値が高まっている。
当院における医療用MaaS によるオンライン診療の現状について述べた。当院のような小規模の病院における医療用MaaS運用開始事例が、今後の導入を検討している病院への一助となり、受診が困難な患者様への恩恵となれば幸いである。
全国自治体病院協議会雑誌2026(1) 101-2


